御曹司と婚前同居、はじめます
瑛真は穏やかに微笑んで煙を空へ吐き出した。

これぐらいの年齢になると煙草がやけに似合ってくる。

煙草を持つ手指のすらりとした長さが綺麗で、見惚れているのを自覚しながらも目が離せなかった。

お箸を持つ時と同じように、瑛真の所作には美しさがある。

僅かな沈黙が私たちの間に走った。


「幸せな嘘もあるんじゃないか?」


煙草を吸う合間にぽつりと落とされた言葉に、胸が苦しくなって内側から熱いものが込み上げてきた。

そうだ。私はこの言葉が欲しかったんだ。


「ありがとう」


鼻の奥がツンとして痛い。

かろうじて泣かずにいられたのはここがコンビニの駐車場だから。

すうーっと鼻から空気を取り込んで胸を膨らます。嗅ぎ慣れない煙草の香りが心を落ち着かせてくれる。


「煙、吸うなよ」


慌てて携帯灰皿に煙草を押し付ける姿に笑みがこぼれる。

昔と変わらない。瑛真は優しすぎるくらいに優しい人だ。


「おじいちゃんとおばあちゃんは私の理想の夫婦だったんだ。私も結婚したら、あんな夫婦になりたい」

「なれるよ」


シンプルな返事は、胸にやけに響いた。


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