視線の先には君がいた
1はじまり
特に毎日に不満もなく、少し退屈なくらいが平和でいいなと思う。

そんなことを考えながら久木杏(ひさきあん)は古典の授業を受けていた。

(あっ)

肘を動かしたら、消しゴムを落としてしまった。

気づいた時にはコロコロと隣の席の下に。

「ごめん、消しゴム取って」

小さな声で頼む。
隣の席は、男子だ。少し緊張する。

3人姉妹の真ん中として、女同士のことにかけては自信があるものの、異性と関わる機会は少なかった。

「はい」

ころりと手渡された。

少しだけ、手が触れる。

(そう、間島だ。間島裕(まじまゆう)。)

その男子の名前を思いだした。

短髪が日に明るく、少しワイルドな雰囲気を醸し出している。

「ありがと」

小声で言うと、もう一度「どういたしまして」と返ってきた。

黒板に向き直ると、授業が進んでいて、あわててノートを取る。

(なんだろう……)

いつもと自分が違う気がする。

心臓がばくばく言っていた。

先生の声が耳に入ってこなかった。

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