視線の先には君がいた
「それは恋だね」

昼休みに親友の澄香(すみか)に相談すると、そんな言葉が返ってきた。


「やったね、杏にもついに春がきたかぁ」

落し物拾ってもらって好きになるなんて、どこにでも転がっていそうな話である。

ほくほくと言った表情の親友を見ながら、ありがちすぎて、本当に恋かな、なんて思ってしまう。


「で、その隣の席の彼は誰なのよ」

「……間島裕」

少し声をひそめつつ、フルネームで答える。


「えっ」


澄香の声に近くの女生徒たちが振り向く。

何でもないよーと明るく手を振って、注目を解消する。

澄香も、ひそひそ声で続ける。少し言いにくそうだ。


「間島?間島なのね。うーん、たしかに見た目もいいけど。間島、彼女いるよ」


わぁ、そうなんだ。


恋かと思ったら、即失恋してしまった。


だから、私の恋のつぼみはそこで枯れてしまったと思っていた。


その時は。
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