白貝と柏木
昼休み。
朝言った通り、瑠璃ちゃんがいつもより早く教室に迎えに来てくれた。
誰もいない屋上に飛び出すと、ようやく他人の視線がなくなったのが実感できて、大きく溜息を吐いた。

「あぁ〜!やっと一息つける〜!」
「お疲れさ〜ん。ここまでよく頑張った!」
「ありがと〜」

笑い合いながら、柵の前に腰を下ろした。

しばらくランチタイムを楽しんでいたら、瑠璃ちゃんのケータイが鳴った。

「クラスメイトからメールだ…げっ、担任が私のこと探してるみたい…」
「行った方がいいよ。私なら大丈夫!授業始まるギリギリまでここにいて、忍者みたいに素早く教室戻るから!」
「ん〜、わかった…けどなるべく早く切り上げて戻ってくるからねっ」

瑠璃ちゃんを見送って、今日のお昼のコロッケパンを完食した。
パックに入った烏龍茶を飲んでいたら、屋上のドアが微かに開いた。

「瑠璃ちゃん??」

随分早かったね、と言いかけたら。

驚いた。

ドアを開けたのは瑠璃ちゃんじゃなくて、柏木だった。

「柏木…っ!」

大声を出しかけた私に向かって、しーっと人差し指を口に当てるジェスチャーをしてみせる柏木。
後ろを振り返って、人がいないことを確認すると、黒豹みたいな機敏さでドアを通り抜けて、後ろ手で静かにドアを閉めた。

「どうして私がここにいるってわかったの??」
「なんとなく、カン」

それってもしや野生のカン??すごいなぁ。
柏木が近づいてきて、私の隣に腰を下ろした。

「例の噂、知ってるだろ」

頷く。
柏木がわざわざ私を訪ねて来た時点で、この話題をしに来たことは察しがついていた。

「噂広めた子と話してきた。俺とあんたは付き合ってないから誤解だって。聞けば、喋ってた内容までは聞いてなかったらしいから、たまたま教室に残ってて、授業の内容でわかんないところを話してたって言っておいた」

「…それ…その子信じた…?」
「さぁ。信じたけりゃ信じるんじゃないか?」
「信じてくれるといいなぁ…喋ってるの見られただけでこの騒ぎじゃ、もう放課後の教室は使えないね…」

「…バイトしてるって話しただろ?大通りの近くの第9倉庫で仕分けのバイトしてるから、俺のこと研究観察したくなったらそこに来な」

そう言うと、柏木はさっさと帰っていった。


柏木が立ち去って少ししてから、瑠璃ちゃんが戻ってきた。

「おかえり〜、早かったね」
「ただいま。提出した課題に不備があったみたいで、速攻直して再提出してきたわ…ていうか、歩何かいい事あった?」
「えっ、なんで??」
「なんか、嬉しそうな顔してる。さっきより元気そうだし」
「そ、そうかなぁ…??」


その日、柏木ファンに呼び出されて囲まれたりするかと想像してヒヤヒヤしたけど、放課後になるまで心配していたようなことは何も起きなかった。

ただ、複数の女子達からじろじろ見られたり、ヒソヒソ小声で話されたりするのは、品定めされてるようで居心地が悪かった。

柏木には隠れファンが多いって瑠璃ちゃんから聞いてはいたけど、今日1日でそれがよぉーくわかった…。
< 10 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop