白貝と柏木
倉庫の入口前の階段に柏木と並んで腰を下ろした。
柏木が自販機で私の分もポカリを買ってくれたので、飲みながら話す。
「ここでバイトしてるんだぁ、柏木。いつから働いてるの?」
「4月から。カメラ買いたくて」
「えっ、柏木写真撮るの?」
「撮るよ。元々はケータイのカメラとか、インスタントカメラで撮る程度だったけど、だんだんはまってきて、ちょっといいやつ欲しくなったから、その金貯めるためにバイトしてる」
「へぇ〜…写真かぁ〜…いいなぁ、私趣味とかないから、なんか羨ましいなぁ」
そのとき、急に強い風が吹いた。
「びっくりしたぁ…今の風強かったね〜」
言いながら柏木の顔を振り返った。
「あんた、髪ぐちゃぐちゃになってる」
柏木の大きな手がすっと伸びてきた。
「じっとしてな」
長い指が、散らかった私の前髪をそっと摘まんで、すいすい整えていく。
驚いた。
それと同時に、すごくどきっとした。
あの日の、例の現行犯逮捕状態以来、柏木の方から私に触るのは初めてだ。
前髪を直してもらっている間、柏木の顔を眺める。
今日1日過ごしてみて、柏木ファンの多さを実感したわけだけど、改めて見ると、柏木って鼻筋も通っているし、シャープな輪郭をしてる。
今までネコ科の肉食獣みたいだとしか思って見てなかったけど、顔のパーツ一つ一つがきれいに出来上がっていて、整った顔立ちをしてる。
唇の形まで整ってる…。
「できた。これでよし」
柏木が呟いた声に、はっとして我に返った。
前髪を直してくれていた柏木の指が、離れていく。
それがなんだか妙に名残惜しい気がした。
「あ、ありがと…」
乱れた髪は直し終えたはずなのに、未だにじーっと私の顔を見ている柏木。
「柏木?」
不思議に思って首を傾げる私から視線を外さずに柏木が言った。
「…あんた、俺が気になるだの研究するだの言ってたわりに、今日噂になった途端あっさり引いたな」
「だって柏木ファン敵に回したくないし、いじめられたくないもん。卒業まで平和な学校生活送りたいし」
「あぁそう…」
柏木の眉がピクリとした。
「あれ?私何か変なこと言った??」
「いや、あんたが言ってることはわかる」
わかると言っているわりには眉間に微かに皺が寄っている。
なんで??一体どうしたんだろう??
ふと辺りの景色が暗くなってきていることに気が付いた。
道の街灯には灯りが灯り始めている。
「それじゃ、そろそろ帰るね。暗くなってきたし、柏木のバイト先もわかったことだし」
「じゃあ大通りに出るとこまで送ってく」
「大丈夫。そんなに長い距離じゃないし、街灯もあるしね。あ、ポカリごちそうさま」
手の中の青い缶をゆらゆら横に揺らす。
「明日は何か差し入れ持ってきてあげるね〜!」
柏木に手を振って、倉庫を後にした。
20171011
柏木が自販機で私の分もポカリを買ってくれたので、飲みながら話す。
「ここでバイトしてるんだぁ、柏木。いつから働いてるの?」
「4月から。カメラ買いたくて」
「えっ、柏木写真撮るの?」
「撮るよ。元々はケータイのカメラとか、インスタントカメラで撮る程度だったけど、だんだんはまってきて、ちょっといいやつ欲しくなったから、その金貯めるためにバイトしてる」
「へぇ〜…写真かぁ〜…いいなぁ、私趣味とかないから、なんか羨ましいなぁ」
そのとき、急に強い風が吹いた。
「びっくりしたぁ…今の風強かったね〜」
言いながら柏木の顔を振り返った。
「あんた、髪ぐちゃぐちゃになってる」
柏木の大きな手がすっと伸びてきた。
「じっとしてな」
長い指が、散らかった私の前髪をそっと摘まんで、すいすい整えていく。
驚いた。
それと同時に、すごくどきっとした。
あの日の、例の現行犯逮捕状態以来、柏木の方から私に触るのは初めてだ。
前髪を直してもらっている間、柏木の顔を眺める。
今日1日過ごしてみて、柏木ファンの多さを実感したわけだけど、改めて見ると、柏木って鼻筋も通っているし、シャープな輪郭をしてる。
今までネコ科の肉食獣みたいだとしか思って見てなかったけど、顔のパーツ一つ一つがきれいに出来上がっていて、整った顔立ちをしてる。
唇の形まで整ってる…。
「できた。これでよし」
柏木が呟いた声に、はっとして我に返った。
前髪を直してくれていた柏木の指が、離れていく。
それがなんだか妙に名残惜しい気がした。
「あ、ありがと…」
乱れた髪は直し終えたはずなのに、未だにじーっと私の顔を見ている柏木。
「柏木?」
不思議に思って首を傾げる私から視線を外さずに柏木が言った。
「…あんた、俺が気になるだの研究するだの言ってたわりに、今日噂になった途端あっさり引いたな」
「だって柏木ファン敵に回したくないし、いじめられたくないもん。卒業まで平和な学校生活送りたいし」
「あぁそう…」
柏木の眉がピクリとした。
「あれ?私何か変なこと言った??」
「いや、あんたが言ってることはわかる」
わかると言っているわりには眉間に微かに皺が寄っている。
なんで??一体どうしたんだろう??
ふと辺りの景色が暗くなってきていることに気が付いた。
道の街灯には灯りが灯り始めている。
「それじゃ、そろそろ帰るね。暗くなってきたし、柏木のバイト先もわかったことだし」
「じゃあ大通りに出るとこまで送ってく」
「大丈夫。そんなに長い距離じゃないし、街灯もあるしね。あ、ポカリごちそうさま」
手の中の青い缶をゆらゆら横に揺らす。
「明日は何か差し入れ持ってきてあげるね〜!」
柏木に手を振って、倉庫を後にした。
20171011