白貝と柏木
待ちに待った放課後。
第9倉庫へ向かう途中、コーヒーショップに立ち寄って、差し入れを買った。
ホットコーヒー、照り焼きチキンサンド、キャラメルナッツケーキが入った紙袋を手にぶら下げて、倉庫に向かう。


第9倉庫に到着。
入口に立って、中を覗く。
柏木の姿を発見して、手を振った。

「柏木〜、差し入れ持ってきたよ〜」

仕事をひと段落させた柏木が倉庫から出てきた。
昨日と同じ、入口の階段の上に並んで座った。
紙袋の中身を取り出して、柏木に手渡す。

「はい、これ、あったかいコーヒー。勿論ブラックだよ!まだ冷めてない。それと、照り焼きチキンサンド。柏木、お米が好きって言ってたけど、コーヒーショップだからご飯ものはなかった。ごめん」
「米しか食わないわけじゃないから大丈夫、貰う」

いただきます、と呟いてから、サンドイッチに噛り付く柏木。

ランチタイムはいつも別々だから、食べてる柏木、初めて見る…!

大きな一口。
食べっぷりがよくて、サンドイッチがどんどん口の中へ消えていく。

もぐもぐしながら、美味い、と呟く柏木を見て、私も自分に買ったキャラメルケーキを食べる。

「このお店、コーヒーだけじゃなくフードメニューも美味しいよねぇ。だからいつも色々買っちゃう」

キャラメルケーキも胡桃が入ってておいしい。

柏木はあっという間にサンドイッチをたいらげて、ペロリと舌で唇を一舐めした。
コーヒーショップのサンドイッチ一つじゃ柏木には物足りなかったかなぁ?

「柏木、キャラメルケーキも食べる?」

半分食べかけのケーキを顔の高さまで持ち上げて見せると、柏木は無言で、目を伏せた顔を近づけた。

口が開いて、ぱくり、ケーキに噛り付く。

うわっ!うわわわ…!!!

顔、近い…!!

た、食べてる…!!
柏木が、私の手から、ケーキ食べてる…!!

なんか、この状況、餌付けしてるみたい…!

ふと、柏木の口元…特に唇に視線が釘付けになる。

唇、触ったらどんな感じなんだろう…?

きれいな形の唇だとは思ってたけど、どんな感触なんだろう…。

やわらかいのかなぁ…?

触ってみたい。確かめてみたい。

指先で…それか、私の唇で。

…ん??唇で??

柏木の顔が離れる。
もぐもぐしながら、頷いて、呟く。

「うん、美味い」
「だっ、だよね…!甘さ、控えめで、コーヒーに合う味…!」

なんか今、私、変なこと考えた気がする…!

…ていうか、ケーキ、半分にして渡せばよかったのに、フッツーに食べかけを勧めてしまった…!!

それをなんの躊躇もなく食べちゃう柏木も柏木だけど…!

それに、今のって…!

今のって、いわゆる、間接キス…!!

気付いた途端に頬がかぁーっと熱くなった。

ええぇぇ、何これ何これ…!顔、熱い…!
絶対今、私のほっぺた真っ赤になってる…!
ペットボトルの回し飲みとか、一口ちょーだいって食べかけ貰ったり、瑠璃ちゃんとしてるのに、相手が柏木だと何でこんなにドキドキするんだろ…??

赤くなった私の頬を見逃さなかった柏木は、にやりと笑った。

「あんた、顔が赤くなってる」
「そっ、そうかなぁ…!?き、気のせいじゃない…!?」

慌てて真っ赤になった顔を逸らしてみるも、大した効果も説得力もないことくらい自分でもわかった。

誤魔化してるのばればれだよ私〜!!

柏木は愉快そうに目を細めて、私の心臓に爆弾を投下した。

「間接キス、とでも思った?」

ひえぇぇ!!見透かされてる…!!

ほっぺたの温度が更に上昇した。

「お、思ってない…!!」
「どうだか」

茹で蛸みたいになりながら、苦し紛れな一言を絞り出した私に、柏木は喉の奥でくつくつ笑った。
なんか、随分機嫌良さそう…。

「あんた、初恋もまだだったりする?」
「初恋くらいあるよ!」

答えたら、笑ってた柏木の目がすうっと鋭く細まった。
あ、これ、前に見た野生の虎モードだ…。

「…へぇ。いつ?相手は?」
「中学生のとき…クラスメイト…」
「…それで?」
「えっ、続き聞くの??私の初恋の話なんて聞いたってつまんないよ??」
「いいよ。つまんなくても。聞いてやるから、話してみな」
「えぇ〜…ほんとに聞くのぉ…?ほんとにつまんないんだよぉ??」

渋る私に駄目押しの一言。

「俺、あんたの研究とやらに付き合ったよな?」

つべこべ言ってないでとっとと吐け。
…って、目が言った気がする…。
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