白貝と柏木
05
最近、風の強い日が多い。
日本列島に台風が接近中らしい。

柏木のバイト先から帰るときも、風が強くなり始めていた。

「気をつけて帰れよ。あんた、小さいから飛ばされそうだ」
「えっ、私、一応身長160センチあるよ?」
「俺から見たら小さいってこと。腕なんかコンビニのビニール傘みたいに簡単に折れそうだし」
「えぇ〜、そんな弱そうに見えてんの?ていうか、どうせならもっといい傘にしてよ〜」

私の言葉が可笑しかったらしく柏木は、ふは、と笑った。

帰宅後、家族で食卓を囲んでいる。
テレビでは天気予報が流れている。
相変わらず台風は接近を続けているらしい。
直撃を避けて抜けていけばいいね、と両親が話すのを聞きながら、ぼんやりと柏木の広い背中を思い浮かべていた。

柏木は強い風が吹いても平気そうだなぁ。
身長180センチあるし、がっちりした厚みのある体してるし、ちょっとやそっとじゃ、ぐらつかなさそう。

飛びついてみたとしても、びくともしなさそうだなぁ…。

飛びついてみたら、どんな感じがするんだろう。

柏木はどんな反応するんだろう。
どんな顔で振り向くんだろう。

今度、飛びついてみようかな…。

…って、待て待て私!また変なこと考えてる!

この前のキャラメルケーキのときから何か変だ…。

柏木がどんな人なのか興味があるだけで、離れたところからこっそり眺めてデータを集めるだけで満足だったのに、今は柏木をもっと知りたい、もっと近付きたい、もっと柏木に触りたいと思ってる。

だからって本当に触ったら、教室で柏木の髪を触っちゃったあの日の二の舞になる…!

ほんとに変態になっちゃう…!

考えを打ち消そうと、頭をぶんぶん横に振る。
どうしたの、と訝しがる両親に、何でもないと答えて夕飯を食べた。
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