白貝と柏木
学校に登校したのは昼休みだった。
職員室に立ち寄って担任と話してから、教室へ向かう。
教室の前まで辿り着くと、瑠璃ちゃんが私を待ち構えていた。

「歩、一大事!」
「えぇっ、なになに?噂はもう収束したよね?」
「新しい問題発生!…柏木が、5組の女子に呼び出された」

瑠璃ちゃんの言葉に、体が石のように固まった。

「昼休み、今日はあんた遅刻だったから、教室でランチ食べてたわけ。
そしたら、柏木が3組の藤岩と一緒にうちのクラスの橘を訪ねてきて、3人で喋ってて、これから購買に行くんだろうなーと思って見てたら、そこへ5組の女子がやって来て、柏木くんお話が…とか言って連れてったのよ!
5組って、また遠いところから来たなーと思ったんだけど、女子が男子を呼び出して一対一で話すことなんて、告白しかないじゃん?
さすがに後つけたりはできなかったから、正確にはわかんないけど、階段上がってったから、美術室か音楽室あたりに連れてったんじゃないかな…」

柏木が、告白されてる…。

正確には、告白されてるかもしれない、なんだけど。

もし、柏木が告白されて、もしも、その返事がオッケーだったら。

そう考えた途端、息が詰まって、胸が苦しくなった。

…嫌だ。

だって、きっと、柏木に彼女ができたら、もう放課後に2人で会えなくなる。
研究も観察もできなくなる。

そんなの、彼女が知ったら快く思わないだろうし、柏木だって私の相手どころじゃなくなる。

私じゃない他の女の子が、柏木と一緒にいるのを想像する。

やだ。そんなのやだ。絶対やだ…!

他の女の子が、柏木の傍にいるのなんて嫌だ。

ヘビメタが好きとか、食いしん坊なのとか、たまに抜けてるところとか、今まで私が集めたデータを他の子も知るなんて嫌だ。

私以外の誰かが、あのさらさらの髪を撫でて、あの招き猫みたいな顔で笑いかけられたら。
あの、肉食獣の瞳で見つめられて、あの大きな手に触れられたら。

やだ、やだ、やだ…!
そんなの、耐えられない…!

私だけが、柏木を一番知ってたい。
私だけが、柏木の一番近くにいたい…!

誰とも付き合わないで、なんて言う権利がないことくらいわかってる。
けど、せめて、私が柏木の研究をしてる間は、付き合わないでほしい。

告白、オッケーしないでほしい。
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