白貝と柏木
「柏木春基?」
「そう柏木。歩の左斜め前の席でしょ?じゃあ柏木だよ」
5月初旬、屋上。
購買で買ったクリームパンをぱくつきながら、瑠璃ちゃんから例のクラスメイトの名前を教わった。
名前、柏木春基っていうんだ。
「てか隣のクラスの私が知ってて、同じクラスのあんたが知らないってどういうことよ。いい加減クラスメイトの名前くらい覚えなよねー」
呆れ顔でメロンパンを食べる瑠璃ちゃん。
「1年のときに柏木の友達がうちらと同じクラスにいたから、ちょくちょく話しに来てたじゃん、柏木。覚えてない?」
「ぜんっぜん…」
「まぁ、あんたは自分と関わりがないヤツ覚えないからね」
「仰る通りです…」
「柏木かぁ…。あいつが教室来ると女子達がそわそわすんだよね。近寄りがたいオーラ出てるからみんな話しかけられないんだけど、背高いしルックスは悪くないじゃん?隠れファン多いのよね」
「そうだったんだ…。瑠璃ちゃんよく見てるねぇ」
「歩が見てなさすぎなんだって…」
かしわぎ、はるき。
覚えたばかりの名前を反芻する。
心の中で呟いたつもりが実際口に出てたみたいで、瑠璃ちゃんがやけにニヤついた顔で私を見ていた。
「しかしそっかあ、ついに歩にもねえ…」
「ん?」
「いや〜柏木みたいなのがタイプとは知らなかったけどさ〜」
「へ?たいぷ?」
「いいんじゃない柏木!チャラチャラもなよなよもしてないし!なんつーか、漢!ってかんじ?かっこいいんじゃない?まぁ、無愛想であたしはタイプじゃないけど」
「瑠璃ちゃん?なんのはなし?」
「歩が決めたんなら応援する!がんばれ歩!」
「応援て何??ほんとに何の話してんの??」
「またぁ、とぼけないでよぉ、恋だよ恋!好きになっちゃったんでしょ?柏木のこと!」
…ん?
「なんでそうなるの?」
「へ?」
「好きじゃないよ」
「そうなの?」
「うん。気になるだけ。どんな人なのか興味あるだけ」
「いやいやいや、それ好きってことでしょ。恋でしょ」
「えー?なんでそうなるぅ?」
「なんでって言われても…」
困惑した表情で固まる瑠璃ちゃん。
「だってなんか、あのひとネコ科の肉食獣っぽくない?目とか顔とか雰囲気が。そんな人って他にいないし。
同じクラスの子とあんまり喋らないし、笑ってるのも見たことないから何考えてるのかどんな人なのかわかんないんだよね。
休み時間は大抵寝てるし、お昼は他のクラスの子たちとどっか行っちゃうし。友達といる時はどんな顔して、どんな話するんだろーとか…とにかく気になる」
「だっての意味がわかんないけど歩が柏木をよーく見てんのはわかった」
額に手を当てて、絞り出すような声で言う瑠璃ちゃん。
「どしたの瑠璃ちゃん。頭痛い?大丈夫?」
「誰のせいだ…いや、なんでもない、大丈夫…それで…?ネコに似てるから気になるだけで、好きではないって?」
「ネコじゃなくてネコ科の肉食獣」
「どっちでもいいわ」
「ミステリアスっていうか、なんていうんだろ、謎の存在?未知の領域?図鑑に載ってないきのこ?」
「最後のは絶対違うと思う…」
「だから研究のために観察してる。生態を調査してる」
「あいつは野生動物か」
額を抑えてがっくり項垂れてる瑠璃ちゃん。
何かぶつぶつ言った後、ちっとも納得いってない顔で「わかった」と言った。
「わかった、けど…それって、本当に好きじゃないわけ?」
「好きじゃないよ?」
「ほんとに?ほんっっっとに?」
「ほんとに好きじゃないってば〜」
「ほんっっっとーーーに??」
「ほんとに!」
その後もしつこく食い下がる瑠璃ちゃんにこれは恋愛感情ではない純粋な好奇心だと説明して念押しした。
「そう柏木。歩の左斜め前の席でしょ?じゃあ柏木だよ」
5月初旬、屋上。
購買で買ったクリームパンをぱくつきながら、瑠璃ちゃんから例のクラスメイトの名前を教わった。
名前、柏木春基っていうんだ。
「てか隣のクラスの私が知ってて、同じクラスのあんたが知らないってどういうことよ。いい加減クラスメイトの名前くらい覚えなよねー」
呆れ顔でメロンパンを食べる瑠璃ちゃん。
「1年のときに柏木の友達がうちらと同じクラスにいたから、ちょくちょく話しに来てたじゃん、柏木。覚えてない?」
「ぜんっぜん…」
「まぁ、あんたは自分と関わりがないヤツ覚えないからね」
「仰る通りです…」
「柏木かぁ…。あいつが教室来ると女子達がそわそわすんだよね。近寄りがたいオーラ出てるからみんな話しかけられないんだけど、背高いしルックスは悪くないじゃん?隠れファン多いのよね」
「そうだったんだ…。瑠璃ちゃんよく見てるねぇ」
「歩が見てなさすぎなんだって…」
かしわぎ、はるき。
覚えたばかりの名前を反芻する。
心の中で呟いたつもりが実際口に出てたみたいで、瑠璃ちゃんがやけにニヤついた顔で私を見ていた。
「しかしそっかあ、ついに歩にもねえ…」
「ん?」
「いや〜柏木みたいなのがタイプとは知らなかったけどさ〜」
「へ?たいぷ?」
「いいんじゃない柏木!チャラチャラもなよなよもしてないし!なんつーか、漢!ってかんじ?かっこいいんじゃない?まぁ、無愛想であたしはタイプじゃないけど」
「瑠璃ちゃん?なんのはなし?」
「歩が決めたんなら応援する!がんばれ歩!」
「応援て何??ほんとに何の話してんの??」
「またぁ、とぼけないでよぉ、恋だよ恋!好きになっちゃったんでしょ?柏木のこと!」
…ん?
「なんでそうなるの?」
「へ?」
「好きじゃないよ」
「そうなの?」
「うん。気になるだけ。どんな人なのか興味あるだけ」
「いやいやいや、それ好きってことでしょ。恋でしょ」
「えー?なんでそうなるぅ?」
「なんでって言われても…」
困惑した表情で固まる瑠璃ちゃん。
「だってなんか、あのひとネコ科の肉食獣っぽくない?目とか顔とか雰囲気が。そんな人って他にいないし。
同じクラスの子とあんまり喋らないし、笑ってるのも見たことないから何考えてるのかどんな人なのかわかんないんだよね。
休み時間は大抵寝てるし、お昼は他のクラスの子たちとどっか行っちゃうし。友達といる時はどんな顔して、どんな話するんだろーとか…とにかく気になる」
「だっての意味がわかんないけど歩が柏木をよーく見てんのはわかった」
額に手を当てて、絞り出すような声で言う瑠璃ちゃん。
「どしたの瑠璃ちゃん。頭痛い?大丈夫?」
「誰のせいだ…いや、なんでもない、大丈夫…それで…?ネコに似てるから気になるだけで、好きではないって?」
「ネコじゃなくてネコ科の肉食獣」
「どっちでもいいわ」
「ミステリアスっていうか、なんていうんだろ、謎の存在?未知の領域?図鑑に載ってないきのこ?」
「最後のは絶対違うと思う…」
「だから研究のために観察してる。生態を調査してる」
「あいつは野生動物か」
額を抑えてがっくり項垂れてる瑠璃ちゃん。
何かぶつぶつ言った後、ちっとも納得いってない顔で「わかった」と言った。
「わかった、けど…それって、本当に好きじゃないわけ?」
「好きじゃないよ?」
「ほんとに?ほんっっっとに?」
「ほんとに好きじゃないってば〜」
「ほんっっっとーーーに??」
「ほんとに!」
その後もしつこく食い下がる瑠璃ちゃんにこれは恋愛感情ではない純粋な好奇心だと説明して念押しした。