白貝と柏木
昼休み、学校の屋上。
今日の天気は快晴。
気温も高くて、5月中旬だというのに夏の陽気だ。

瑠璃ちゃんの最近の悩みは紫外線らしい。

「あ〜、もう!また日焼けしちゃう!」

忌々しげに太陽を睨みながら、日焼け止めクリームを塗っている。

「早くない?まだ5月だよ?」
「甘い!暦の上ではもう夏なんだから!歩も塗っときな!いくら色白で焼けにくいからって、紫外線ナメてると後が恐いんだからね!」

私の腕を取ると、日焼け止めクリームをぬりぬり塗り始める。

「歩はいいよね〜、色白だし、髪の色も、染めなくてもきれーな胡桃色だし」

日焼け止めを塗り終えると、瑠璃ちゃんは指先で私の短い髪をつついた。

「私、日焼けしても赤くなるだけなんだよねぇ。冬には白く戻ってる。だから白さには自信がある」
「まるで洗剤のCMだね、あんた…」

遺伝的に色素が薄く、色白で髪の色も赤茶けている私とは対照的に、瑠璃ちゃんの肌は小麦色で、長い髪は真っ黒で艶艶してる。
初めて会ったとき、南国のお姫様みたいな子だなぁと思った。

「ところで、白貝博士。ネコ科の肉食獣の研究はどうなってんの?」

「どっ、どうなってるって、何が??」

「とぼけないでよぉ〜、あんた達何かあったんでしょ〜?この前の、例の5組の女子が柏木に告白した日、あんた様子がいつもと違ったもん。
動揺してるように見えたし、いきなり走ってどっか行っちゃうし。
柏木に対する感情は好奇心であって恋愛感情じゃない、研究のために観察してるだけだーって言い張ってたけど、あれから交流も深まったわけでしょ?今はどうなの?柏木のこと、本当はどう思ってるの?」

ずいっ、と顔を覗き込んでくる瑠璃ちゃん。

「ほ〜ら、白状しなさい」

瑠璃ちゃんはきっと、とっくに私の気持ちなんてお見通しなんだ。

「わ、私…柏木が、好き…なんだと、思う…」

「だと思う?」

「…好き、です…」

「じゃあそれを早く柏木に言ってあげなよ。待ってるんでしょ?あんたに好きって言われるの」

「無理だよ…そんなこと言ったら、本当に変わっちゃう…」

柏木が好きだって認めてしまったら、柏木に言わなきゃいけない。
言ってしまったら、きっと変わってしまう。

私が変わってしまう。
私と柏木の関係が変わってしまう。

今でさえ、柏木の顔を見るとドキドキして、頬が赤くなってしまう。
それが恥ずかしくて、柏木がまともに見れないし、ろくに話せない。
これで好きだなんて言ってしまったら、どうなるのか。想像もできない。

それが恐かった。

最近は、柏木を見る女子達の視線にも敏感になった。
以前は気が付かなかったのに、今は見てるとわかるようになってしまった。
あの子も、あの子も、柏木が好きなんだと思うと、胸が苦しくなって、すっごく嫌な気持ちになる。

前はこんなんじゃなかったのに。

足元に生えた植物の蔦が這い上がって来て、ぐるぐる体に巻き付いて、それがだんだん首元まで上がってくるような感覚。

なんか、疲れてきた…。
人を好きになるって、こんなにしんどいもの?


次の日、柏木のバイト先に顔を出して、研究を休みにするからしばらく倉庫には来ないと伝えた。
柏木は少し黙った後、わかった、と答えた。

それからは、柏木を避けるようになっていった。

教室では柏木の方を向かないようにして、休み時間になると教室を出て瑠璃ちゃんのところへ向かう。
放課後になるとすぐに席を立って、瑠璃ちゃんと帰る。
廊下ですれ違うときも、柏木の顔を見ないように、目を逸らす。
柏木は、私が避けていることに気付いているようだったけど、話しかけてくることはなかった。

そうして、一週間が過ぎようとしていたときだった。

柏木が、今月2回目の告白をされたのは。
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