白貝と柏木
昼休み、瑠璃ちゃんと屋上でのランチを終えて、階段を降りてくると、教室の前の廊下が何やらざわついていた。

人垣の向こうに見えたのは、廊下の真ん中に立っている柏木と、その前に立っている女の子の姿だった。

たった今告白されたところらしく、廊下にいた子は足を止めて見ているし、教室の中から身を乗り出して見ている子もいる。

「あれ3組の女子じゃん。やっぱり、あの噂マジだったんだ…実は、あんたと柏木の交際疑惑が流れた後で、柏木の隠れファンの一部が焦って争奪戦始めるかもって話があって…5組の女子が告白した時点でまさかとは思ってたんだけど…始まったらしいね。ていうか、あの女子、廊下のど真ん中で告白なんて、度胸あるっつーか、人目を憚らないっつーか、柏木にとっちゃいい迷惑だろうに…」

まただ。胸が苦しくなって、すっごく嫌な気持ちになる。
見たくないのに、体が凍りついたように固まって、動けない。

「…悪いけど、付き合えない」

柏木の低い声が聞こえる。

見物人で溢れる廊下を、うんざりした顔で見渡した。
その目が、廊下の先、人混みの向こうにいる私の姿を捉えた。

ぴたり、と照準を合わせたのがわかる。

目の前にいる女の子じゃなくて、真っ直ぐに私を見据えて、こう言い放った。

「好きなやつがいるから」

その声が、人混みを飛び越えて、私の心臓に突き刺さる。

断られた女の子が泣きながら駆けていく。
見物していた生徒達は、気まずそうに視線を逸らして、教室の中へ戻って行ったり、廊下を歩き始めた。

人混みが散っていって、私も柏木もお互いの姿がよく見えるまでになる。

柏木の足が、一歩前に踏み出す。
その動作に、思わず肩が跳ねて、私は一歩後退りした。

それを見た柏木の眉がぴくりとする。

駄目だよ。来ないで。

目で訴えるも、柏木はまた一歩前に踏み出したので、私は背中を向けて走り出した。
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