白貝と柏木
午後の授業も柏木を観察した。
窓の外を見るふりしながら、左斜め前の横顔を眺める。
柏木が右側を見たり振り返ったりする気配を感じたらすぐ目を逸らす。
4月のあの日以来、ずっと隠れて観察してるから、私の盗み見スキルはかなり上達してる。
柏木が友達といるときはさすがに近寄れない。
友達とはどんなこと話すのか気になるけど、盗み聞きするのはちょっと気が咎める。
教室にいるときの柏木はあまり話さないけど、クラスメイトと短い会話をしているときの声は、低くて物静かだ。
授業中はちゃんとノートとってるけど、時々頬杖ついてうとうとしてる。
よくペンを指で回す。
部活はやってない。
けど帰宅部にしてはガタイがいい。何でかなぁ。
この数日間観察してわかったことはそれくらい。
まだまだデータが足りないなぁ…。
ぼんやりと柏木の後頭部を眺めてたら、その頭がいきなり振り返った。
ひ!
完っっっ全に、目と目が合った。
ひええぇ…!!
危うく叫び声をあげそうになったけど、口をぎゅっと引き結んでなんとか堪えた。
切れ長で、目尻がきゅっと上がっているネコ科の肉食獣みたいな目。
その目が、じっと私の目を見たままで、何故か視線を逸らさない。
な、なんで??
なに??なになになに…!?
なんでこっち見たの??
なんで目逸らさないの??
普通すぐ逸らすよね??
なんでこんな、じっと見てるの…!?
息が止まりそうになって慌てて目を逸して、逃げるように俯いた。
机の上、書きかけのノートを見る。見るだけ。読んでいるわけじゃない。ていうか読めない。文字が文字として頭に入ってこない。こういうの何て言うんだっけ、ゲシュタルト崩壊??
心臓がばくばくいってる。
目が合ったのはほんの3秒くらいのはずなのに3分くらいに感じた。
ゆっくり10数えてから恐る恐る顔を上げて横目でそぉっと見てみる。
柏木はもうこっちを向いてはいなかった。
黒板を見てノートをとってる。
ほっとして、肩の力が抜ける。
びっくりしたあぁ…!
なんだったんだろ、今の…。
見てるのばれたのかな。
それともただの偶然…?
ばれたら観察できなくなっちゃう。
ばれてませんように、ばれてませんように…。
放課後。
「歩ー、迎えにきたよー」
瑠璃ちゃんがドアのところに立って手を振ってる。
「今行く!」
急いで鞄に荷物を入れて立ち上がる。
横目で柏木を見た。
まだ帰る支度してない。
急ぐ様子もないし、のんびりしてる。
あ、後頭部の形きれい。
「お待たせ、帰ろ〜」
「観察はもういいの?」
「瑠璃ちゃん!しー!」
「はーい、もう言いません白貝博士〜」
教室を出て行くときにこっそり振り向いてみた。
柏木は席に座ったままで携帯を見てた。
窓の外を見るふりしながら、左斜め前の横顔を眺める。
柏木が右側を見たり振り返ったりする気配を感じたらすぐ目を逸らす。
4月のあの日以来、ずっと隠れて観察してるから、私の盗み見スキルはかなり上達してる。
柏木が友達といるときはさすがに近寄れない。
友達とはどんなこと話すのか気になるけど、盗み聞きするのはちょっと気が咎める。
教室にいるときの柏木はあまり話さないけど、クラスメイトと短い会話をしているときの声は、低くて物静かだ。
授業中はちゃんとノートとってるけど、時々頬杖ついてうとうとしてる。
よくペンを指で回す。
部活はやってない。
けど帰宅部にしてはガタイがいい。何でかなぁ。
この数日間観察してわかったことはそれくらい。
まだまだデータが足りないなぁ…。
ぼんやりと柏木の後頭部を眺めてたら、その頭がいきなり振り返った。
ひ!
完っっっ全に、目と目が合った。
ひええぇ…!!
危うく叫び声をあげそうになったけど、口をぎゅっと引き結んでなんとか堪えた。
切れ長で、目尻がきゅっと上がっているネコ科の肉食獣みたいな目。
その目が、じっと私の目を見たままで、何故か視線を逸らさない。
な、なんで??
なに??なになになに…!?
なんでこっち見たの??
なんで目逸らさないの??
普通すぐ逸らすよね??
なんでこんな、じっと見てるの…!?
息が止まりそうになって慌てて目を逸して、逃げるように俯いた。
机の上、書きかけのノートを見る。見るだけ。読んでいるわけじゃない。ていうか読めない。文字が文字として頭に入ってこない。こういうの何て言うんだっけ、ゲシュタルト崩壊??
心臓がばくばくいってる。
目が合ったのはほんの3秒くらいのはずなのに3分くらいに感じた。
ゆっくり10数えてから恐る恐る顔を上げて横目でそぉっと見てみる。
柏木はもうこっちを向いてはいなかった。
黒板を見てノートをとってる。
ほっとして、肩の力が抜ける。
びっくりしたあぁ…!
なんだったんだろ、今の…。
見てるのばれたのかな。
それともただの偶然…?
ばれたら観察できなくなっちゃう。
ばれてませんように、ばれてませんように…。
放課後。
「歩ー、迎えにきたよー」
瑠璃ちゃんがドアのところに立って手を振ってる。
「今行く!」
急いで鞄に荷物を入れて立ち上がる。
横目で柏木を見た。
まだ帰る支度してない。
急ぐ様子もないし、のんびりしてる。
あ、後頭部の形きれい。
「お待たせ、帰ろ〜」
「観察はもういいの?」
「瑠璃ちゃん!しー!」
「はーい、もう言いません白貝博士〜」
教室を出て行くときにこっそり振り向いてみた。
柏木は席に座ったままで携帯を見てた。