甘い甘い一晩を君と
「梓」
 
怒っていると思われないように、静かに言った。
梓が顔を上げる。今にも泣いてしまいそうだ。
 
「梓、大丈夫か? 怪我してないか?」
 
優しめにそう言うと、梓は少しほっとしたようで泣きそうな顔も幾らかマシになった。まあ、そんな顔も可愛いのだが。
 
「う、うん。大丈夫だよ」
 
「ちょっ、指から血ぃ出てるぞ! しょ、消毒! いや、洗った方が良いのか?」

梓は笑いながら返事をしたが、その指からは血が流れている。俺は驚いて、一瞬頭が真っ白になった。
 
「直樹? どうしたの? 別に大したことないよ。そんなに焦らなくても大丈夫」
 
梓が心配そうな顔をしている。取り乱してしまったからだろうか。でも、普通そうだろう。もし愛する人が、大きな怪我でもしてたらと思ったら怖くなって取り乱すはずだ。

そんな俺の手を梓が握る。彼女の柔らかい手の感触に、少し落ち着いた。
 
「梓が大きな怪我しなくて良かった」
 
大きく息を吐いてからそう言う。そして、俺はゆっくりとしゃがみ込んだ。
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