私と彼と兄と
私は急いで涙を拭った。



「…謝ろうと思って」



ボソリと呟く兄。

コクリ、と私は頷く。


兄は恐る恐るゆっくりと部屋に入ってきて、静かに床に腰を下ろした。


沈黙が続く。


先に沈黙を破ったのは兄だった。



「…悪かった。嫌な思いをさせてしまって」



情けないように頭を下げる。



「だ、大丈夫…だけど」


「何が大丈夫なんだよ」


「……っ」



ぎゅっと服の裾を握りながら話す私に視線が移された。

兄の目は鋭かった。

いや、睨んでるわけじゃないんだと思うんだけどなんか…



「一瞬の気の迷いであんな事…。しかも妹に」



真剣な目だった。


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