さまよう爪
専用のシャワー台で髪を濡らされてから鏡の前の椅子に座る。

指名した美容師の子はサイトの写真より髪が短かくなっていた。

黒の二枚仕立てタンクトップを着て、ボーイフレンドデニムにカーキ色のモンキーブーツ。

身体が細過ぎだけど、そこに乗る黒髪のショートヘアーが良く似合っていた。

可愛いよりかっこいいと言われるタイプ女の子だ。

初めてのご利用ですね。指名して頂いてありがとうございます。という彼女の言葉。唇に穏やかな笑みを浮かべたクールな表情。

わたしは軽く微笑み頷いてフォクシーのショーウィンドーを目印に来たから迷わずに済んだと言う。

一瞬の後、彼女はすぐに――ええ、あそこの洋服は素敵ですよね。わたしには似合いませんけど。と言う。わたしは自分も似合わないと答えた。

彼女は入店してからのわたしをよく観察しているようだ。

服装や髪型に持っているバッグからわたしの服装の趣味や趣向を予想していると思う。

それもきっとそんなには間違っていない予想だ。

現在の髪型や希望は既にネットで伝えてある。

彼女がわたしの濡れた髪の毛を優しく触る。

ゆっくりと波打った髪の毛が鎖骨や肩甲骨に触る。

イメージチェンジしたいのと言うと、彼女は表情を変えずに、わかりました。と言った。
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