さまよう爪
だが、瀬古さんに強く腕を掴まれてしまう。わたしはびっくりして目を丸くした。
「……そばにいてほしい」
彼はわたしを見れず、視線は床だった。
そのまま、行かないで。と言った。
えっと。
「お葬式にですか?」
無理に笑いながら瀬古さんの声を待てば、ようやくこちらを向いてくれたかと思えば、その顔は苦々しい困惑の色。湿り気を帯びた目。
その男のところ、行かないで。
かなしそう顔をしていた。
あの。
これ、まだ言ってなかったと思うんですけど。
「小野田さんが好きです」
かなしそうな声で言った。
腕に引っ張られ。――座って。促されて、座る。
気まずくなって目を伏せたところで、お腹が鳴ってしまう。胃が収縮するときの満腹音。
ギョッとしてお腹を手で押さえても、無駄だった。向こうにはしっかり聞こえたらしい。
口を歪ませて、かすかに笑う瀬古さん。目は、やはり潤んでいた。
小野田さん。
「……は、はい」
「少し。少しだけ、昔ばなししていい?」
胸がざわつく。
「……」
小さく頷くと彼はまた優しく微笑んだ。
「……そばにいてほしい」
彼はわたしを見れず、視線は床だった。
そのまま、行かないで。と言った。
えっと。
「お葬式にですか?」
無理に笑いながら瀬古さんの声を待てば、ようやくこちらを向いてくれたかと思えば、その顔は苦々しい困惑の色。湿り気を帯びた目。
その男のところ、行かないで。
かなしそう顔をしていた。
あの。
これ、まだ言ってなかったと思うんですけど。
「小野田さんが好きです」
かなしそうな声で言った。
腕に引っ張られ。――座って。促されて、座る。
気まずくなって目を伏せたところで、お腹が鳴ってしまう。胃が収縮するときの満腹音。
ギョッとしてお腹を手で押さえても、無駄だった。向こうにはしっかり聞こえたらしい。
口を歪ませて、かすかに笑う瀬古さん。目は、やはり潤んでいた。
小野田さん。
「……は、はい」
「少し。少しだけ、昔ばなししていい?」
胸がざわつく。
「……」
小さく頷くと彼はまた優しく微笑んだ。