さまよう爪
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鎌倉から帰って、やっと1人の時間がとれたわたしは、結婚式も葬式もいっぺんに参列した、忙しい月だったな。と今月を振り返る。
気がつけばこの部屋もずいぶんと室温が下がり、季節が変わっていることを知る。
湯船で体をあたためたあと、洗面台に向かい合ったわたしは、コットンにたっぷり除光液をなじませ、指先にすべらせていく。
少し染みて、赤がみるみるうちにコットンのほうにうつり、裸の爪が現れる。
いつも思うのだけど、何もつけない指は、とても無防備で、落ち着かない。
でも、今は、この落ち着かなさ自体に、慣れてみようと思うわたしがいた。
人を好きになることを、色づく。と最初に言ったのは誰なのだろう。
体の一部に塗られた色が、いつしか体中を侵食して、ままならないことになっていた。
あの人と、わたしはもう会うことはないだろう。
でも、忘れることもないだろう。
カーディガンを羽織り、わたしはお湯を沸かし始める。熱い飲み物でも飲んで、今日は早く寝てしまいたい。そう思いながら何度も何度も、わたしは自分の色のない爪を眺めてみる。
毎日のようにマニキュアで覆われていた爪。
取り去られ、素になったそれはうっすら濁って黄ばんでいた。
毎回気づいてはいたけれど、マニキュアを塗り、誤魔化していた。
色を何回も何回も重ねて黄ばんでしまった爪を、隠していた。
これがわたしだ。