さまよう爪
初恋の記憶が、褪せないのは何故だろう。
25歳になる今も。
わたしは彼が言い残したたぶん冗談に違いない約束を、忘れられないでいる。
あのあとはたしか、帰ってきた母親がわたしの爪を見て男に憤慨し、出て行ってと言って、それから彼とは一度も会っていない。
そして、母親はわたしのことを平手で叩いた。
母親に手をあげられたのは、後にも先にもこのときだけだったけれど、今思えば母親は嫉妬していたのかもしれない。
男が爪を塗ったのが、恋人である母親ではなく、その娘のわたしだったことに。
わたしはそれから、爪先に色を欠かさなくなった。
色のついた爪を見るたび、必ずあの日に引き戻される。
あの光が少しだけしか入らない昏い部屋、そこでわたしの心は、ずっと男を待っている。
25歳になる今も。
わたしは彼が言い残したたぶん冗談に違いない約束を、忘れられないでいる。
あのあとはたしか、帰ってきた母親がわたしの爪を見て男に憤慨し、出て行ってと言って、それから彼とは一度も会っていない。
そして、母親はわたしのことを平手で叩いた。
母親に手をあげられたのは、後にも先にもこのときだけだったけれど、今思えば母親は嫉妬していたのかもしれない。
男が爪を塗ったのが、恋人である母親ではなく、その娘のわたしだったことに。
わたしはそれから、爪先に色を欠かさなくなった。
色のついた爪を見るたび、必ずあの日に引き戻される。
あの光が少しだけしか入らない昏い部屋、そこでわたしの心は、ずっと男を待っている。