さまよう爪





わたしは台所でお茶の準備をする。

直人はソファに座り、待つ。

職場の子が韓国旅行に行ってお土産で貰ったお茶。

五味子茶(おみじゃ)と言って体に良いらしく一時期日本のCMにもよく見かけた韓国女優も愛飲しているものらしいが、珍しいもので何となく躊躇してしまってついついしまいこみ、1年。

気づいてしまった。

賞味期限は大丈夫か。ハングルが読めない。ハングル語3文字があって、2016.2.24とある。

まあ、未開封だし……

スティックタイプだから酸化もしにくいだろうと考えていると、

『すみれ』

なぞるような声に呼ばれて、我に返る。

『……え?』

『ぴー鳴ってる。沸騰してる』

わたしの隣にあるケトルを指さすためにこちらへ来た直人が、視界の隅にちらついたせいで火を止めるのが僅かに遅れる。

『え、あー! ……と。ごめん、ありがとう』
< 4 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop