さまよう爪
わたしは台所でお茶の準備をする。
直人はソファに座り、待つ。
職場の子が韓国旅行に行ってお土産で貰ったお茶。
五味子茶(おみじゃ)と言って体に良いらしく一時期日本のCMにもよく見かけた韓国女優も愛飲しているものらしいが、珍しいもので何となく躊躇してしまってついついしまいこみ、1年。
気づいてしまった。
賞味期限は大丈夫か。ハングルが読めない。ハングル語3文字があって、2016.2.24とある。
まあ、未開封だし……
スティックタイプだから酸化もしにくいだろうと考えていると、
『すみれ』
なぞるような声に呼ばれて、我に返る。
『……え?』
『ぴー鳴ってる。沸騰してる』
わたしの隣にあるケトルを指さすためにこちらへ来た直人が、視界の隅にちらついたせいで火を止めるのが僅かに遅れる。
『え、あー! ……と。ごめん、ありがとう』