さまよう爪
彼は、わたしの視線に気づいて見つめ返してきた。

ニッカリ、ホームランみたいな笑顔で、

『今日も綺麗だね』

遠慮なく、わたしの肩に腕をまわしてくる。別に、それ自体には動じない。

『アリガト』

『なに。珍し。疲れてんの?』

マグカップへと湯を注いでいる最中、直人が後ろから抱き締めてくる。

鼻先が、わたしの首筋に埋められる。

まるで犬だ。

危ないと。それがくすぐったくて、身をよじったけど。強い力が抱き締めてきてわたしは、大人しくする。

『ううん。なんか、ボーッとしてただけ』

『じゃあ、……シていい?』

そして、また歯を見せて、あけっぴろげに、だけどどこかいやらしく笑った。

わたしはわたしの身体を後ろから抱きしめている直人の腕に、そっと自分の手を添えた。



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