さまよう爪
「どうしたら小野田さんみたいにメイクが上手になれるのかなぁ?」

社員食堂で、向かい合ってお弁当をつついていた愛流が、小首をかしげてわたしに言う。

こういう仕草が似合うし、かわいい。

確かに、愛流の化粧はわたしに比べれば、あちらこちらに隙があるのがわかるほどに下手だ。

チークはちょっと入れすぎだし、アイシャドウは面倒くさいか苦手なのか入れてはいないし、唇も少し荒れ気味だ。

でも、そんな彼女には、恋人がいて、もう夫と言うべきか、結婚する。

「なんせ、10歳の時からメイク練習してたからね」

「えっ、それほんとですかぁ? おっとなぁー! すごーい!」

わたしのふざけた告白に、愛流は目を輝かせる。

そう、あの日、男が現れたのは10歳のときで、それからわたしはドラッグストアでプチプライスの化粧品を集め始めたのだった。

母親のいない時間に、母親の鏡台を使い、練習に練習を重ねたのだ。

大人になって、あの男がもう一度現れたら、今度は子供だなんて思わせない、何て綺麗になったんだと言わせたい。

馬鹿みたいな思い出を心の中で大事にして、いつの間にか15年が経った。

男は、現れないままに。
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