さまよう爪
「でもでも、ちらっと聞いたんですけど、小野田さんはずっとお付き合いしてる人いないってほんとーですか?」

直人のことはもちろん知られてはいない。

この質問に、本当のことを話すのはマズイので
なるべく笑顔で答える。

「うん、だって好きになれるほどの男、いないし。今は仕事したい」

そう言うと、愛流は笑い転げる。

「そのセリフ、小野田さんだからこそ、似合います。確かに小野田さんの美貌につりあう男の人って、なかなかいないもん」

「でしょー?」

我ながら鼻にかけた台詞だな、と思いつつ、わたしは愛流の目の前にある小さな赤いお弁当箱を眺める。

綺麗にアスパラベーコン巻きや卵焼き、ピックに刺した枝豆、プチトマトなどが詰め合わせられた手作りだろうお弁当。

「あたし、小野田さんに憧れてるんです。カッコいいし美人で背も高くてモデルみたい」

「そう? ありがとう」

料理が得意だと聞いていて、たいがいの男は、隙のないメイクをしてデカイ自分よりも、愛流みたいに、多少容姿に隙があって、小柄で相手をよく持ち上げる、料理上手の子を妻にしたいんだろうな、と思う。

今日のわたしのお昼は、自社製造のからあげを使った親子丼定食だ。
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