独り占めしても、いいですか?
「この人、僕の連れなので、連れて行きます」



聞いたことのある声で上を向くと、さっきの男性だった。



「お部屋までご一緒しましょうか?」



「いえ、大丈夫です」



男性は店員さんにそう返すと、



「大丈夫?」



と私に声をかけて、ヒョイっとお姫様抱っこをした。



そうすることでさらに視線を感じた私は、男性の陰にそっと身を隠すようにした。



「ありがとう、ございます」



「いいえ、素敵なレディを放っては置けませんから」



他の人からすると『素敵なレディ』なんて、ちょっとくさいかもしれない。



けど、普段からチヤホヤされて、こういう言葉を聞き慣れている私には、抜群の安定剤となった。



そのまま、眠ってしまったのか、単に意識を失ったのかはわからない。



けど、あまりにも心地がいいものだから、いつの間にか意識が遠のいていた。


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