独り占めしても、いいですか?
「…何?今の…」



何が起こったか全く分からなかった。



そもそも、何か起こったのかどうかすらわからなかった。



私と凛はポカンとしたまま何もない目の前の空気を見つめる。



「翼君は…?」



「……消えた、よな」



そう、『消えた』。



これ以上ないくらいにこの言葉が似合う。



『きた!』翼君は確かにそう叫んだ。



そう叫んだ瞬間、消えた。



なんとか頭を働かせて、校門の外に一歩出てみる。



翼君のいた位置に立って、ぐるっと辺りを見渡した。



「翼君!」



翼君はこの短時間で進んだとは思えないほど遠くにいて、軽やかにアスファルトの上を走っていた。



遠すぎて、もはや翼君かどうかすらもわからない。



「じゃーねー!

日和センパ〜イ!」



微かにそんな声がして、私は翼君の背中に大きく手を振った。



まだ先輩ではないんだけどね…


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