何度でも恋に落ちる
5・寂しさに負けた金魚
翼がいなくなってから、まるで世界がスローモーションになったみたいに1日が経つのが遅かった。
でもそう思っていたのは始めだけで、日が経つに連れて1日の速度は元に戻っていった。
慣れってものは恐い。
翼の事を考えると寂しさに襲われるからとバイトを始め、自分の事に必死になっていたら
いつの間にか翼がいなくなって初めての冬が訪れた。
「寒い。もう冬かぁ…」
バイトからの帰り道を千夏は白い息を吐きながら歩いていた。
足元に落ちている葉がカサカサと音を立てる。
千夏はふと、ある自販機の前で立ち止まった。
「…ココア、今年はないんだ…」
初めて翼とポケットの中で手を繋いだ時、翼がココアを買ってくれた自販機。
あの頃並んでいたあたたかいココアは、今年はミルクティーに変わっていた。
「…翼、甘いの苦手なのに必ずココアを買ってくれたよね」
あったかい缶をポケットに入れて
その中で手を繋いで凍てついた手を温め合って…
冷めかけのココアを分け合って…
去年の冬は寒さなんか感じないほど、幸せだった。
でも今年は……
千夏はココアが置いてあった場所にあるミルクティーを購入すると、コートのポケットに入れた。
ポケットには缶の温かさだけが虚しく広がる。
でもそう思っていたのは始めだけで、日が経つに連れて1日の速度は元に戻っていった。
慣れってものは恐い。
翼の事を考えると寂しさに襲われるからとバイトを始め、自分の事に必死になっていたら
いつの間にか翼がいなくなって初めての冬が訪れた。
「寒い。もう冬かぁ…」
バイトからの帰り道を千夏は白い息を吐きながら歩いていた。
足元に落ちている葉がカサカサと音を立てる。
千夏はふと、ある自販機の前で立ち止まった。
「…ココア、今年はないんだ…」
初めて翼とポケットの中で手を繋いだ時、翼がココアを買ってくれた自販機。
あの頃並んでいたあたたかいココアは、今年はミルクティーに変わっていた。
「…翼、甘いの苦手なのに必ずココアを買ってくれたよね」
あったかい缶をポケットに入れて
その中で手を繋いで凍てついた手を温め合って…
冷めかけのココアを分け合って…
去年の冬は寒さなんか感じないほど、幸せだった。
でも今年は……
千夏はココアが置いてあった場所にあるミルクティーを購入すると、コートのポケットに入れた。
ポケットには缶の温かさだけが虚しく広がる。