物理に恋して
「好きなやつ、いるんだ?」
「う、うん。」
そう言って頬を赤く染め、俯く美月。
昼休みの中庭、よりによってのこの準備室の真下。
初夏の告白。
─ていうか、“好きなやつ”じゃねーだろ。
「そっかぁ。」
少年は頭を掻いて、ハハッと空笑いをした。
─切ない。青春だな。
窓に背を向けて、煙草に火をつける。
「あ、呼び出したりなんかして、ごめん。じゃあな。」
可哀想な少年。
わずかな憐れみと、それを遥かに上回る優越感。
「付き合ってないってことは、望みあるってことだよな!」
ゲホッ
大きめの声が聞こえて、むせながらも視線を戻すと、振り向きざまに笑顔の少年が見えた。
夏服のポロシャツが爽やかすぎる。
「………!」
遠ざかってく少年を傍らに、スカートのプリーツを軽く握りしめて固まったままの美月。
困った時のあいつの癖。
俺は長くなりすぎた煙草の灰を灰皿に落とした。