物理に恋して
そんな本日、大人気の秋野美月は、いつものように、この物理準備室で、イヤフォンを耳にし、ノートを広げ、宿題を始めようとする。


頬にかかる艶やかな髪。
その奥にある表情は読み取れない。


ちらりと目をやると、ノートに男の文字。



「おまえ、それどうしたの?」


「え?」



顔を上げる美月。
音楽、聴いてなかったわけね。



「そのノート。」



俺は構わずノートを顎先で示す。



「あ、この前公欠しちゃったから、ノート写さなきゃと思って… い、…佐々木くん?が貸してくれた」



佐々本、ね。

いや、
なぜそこで赤くなる。



「だって物理ってノート提出あるんだもん。」



だってに続く意味がわからないが、美月はそう言って佐々木のノートをパラパラめくっている。



「俺の教科だろ」


「あ、そっか」


「……。」


「……?」



こいつ、本当に俺をらしくなくイライラさせてくれるんだよな。



机の方に向き直り、一冊のノートを探る。



「先生、怒ってるの?」



後ろから声がする。



「怒ったら困るわけ?」

「…うん。」



振り向いて目が合うと、しゅんとして俯いた。
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