物理に恋して
「失礼します。」
ガラガラ…とドアを開けると、キイと椅子のきしむ音がして、先生がこっちを見た。
「なに」
─ …え?
「なにかしこまってんだよ」
先生は少し笑って顎でソファを示す。
あ、そういう意味かって胸をなで下ろす。
─ …ダメだ、きっと10日間がわたしをすごく臆病にしてる。
「テスト、お疲れ」
ぎこちなくソファに腰掛けるわたしに、先生が言葉をかけてくれた。
「先生も、お疲れさま」
「昼、食った?」
「ううん」
「どっか食い行く?」
突然の先生の言葉に、思わず目を見開く。
そして、一瞬の期待とすぐに取り戻す冷静さ。
駅前のカラオケ、ファーストフード、駅ビル、どこも生徒で溢れかえっているのが容易に想像できた。
無理に決まってた。
先生はさっきまで作業をしていたらしくノートパソコンに向き直っている。
「お腹減ってないから、大丈夫」
先生の背中に答えた。
…先生の冗談ってよくわからない。