物理に恋して
先生は細く煙を吐き出すと、反対側のソファの端に肘をついて、こちらを見ている。



い、いつもだったら、宿題をやったり、いろいろ気を紛らわせられるんだけど。



いや、いつもだったらこうして先生とソファに座ることもないんだけど。





…とにかく、緊張してしまう。





「おまえさ、中庭いただろ」

「え?」


─中庭、中庭、


突然の発言に、急いで直近数日間の記憶をひっくり返す。


最近の中庭といえば委員長とジュース。



「先生、い、佐々木くんのこと、気にしてるの?」


先生はわたしの発言に変な顔をしたかと思えば、上を向いてまっすぐに煙を吐き出した。



─ …ノーコメント?



「わたしは、先生のこと、気にしてたけど。」



わたしはなんだか悔しくなって、思わずそう嘆いた。



「おまえ、ちょっとこい」


はっとして先生を見上げる。


「あ、その前に鍵」


先生はドアを指差す。


「か、鍵?」


「昼間っから取って食ったりしねーから」


驚くわたしに、そんなことを真顔で言う。


ひっ、と…、くって!


慌てるわたしに、しれっとしている先生。
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