物理に恋して
目を覚ますと、カーテンも引いていない部屋の中、月明かりで見える脱ぎ放した浴衣と帯。


ブ─ブ─ブ─ブ─


電源を入れた携帯が震えた。



「はい」

「ちょっと出てこい」



ぼんやりする頭のまま、パーカを羽織ると玄関を出た。



すぐに視界に入る先生の車。


「とりあえず乗れ」


後ろに乗った。


「おまえその顔どうした」

「え…?」

「…寝てました」

「おまえよく寝るな」


先生は少しあきれたように笑ってそう言った後。

「あ、わり」

なぜかすぐにそう言った。



働かない頭でいろいろ考えて、この前のデートで寝ちゃったことを思い出す。





…とにかく先生はどうしてここにいるんだろう。



スーツの先生。

パーカのわたし。髪もぼさぼさ。

車の中。



ようやく慣れてきた目で外を眺めると、浴衣姿の親子が楽しそうに歩いていくのが見えた。



─ そっか、今日は花火大会…。



「学校のやつらもいるかもだろ?」


「うん」



そう、もうわかってるの。


わたしが変なこと言っちゃったってこと。



謝ろうとして、先生を見上げると。



「花火、やる?」



先生が後部座席を指差した。
< 83 / 191 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop