【短】恋のTrick or Treat
「南川っ」
「っ!ちょ、ナニ!?」
カクンと止まったのは私のスクバのえを掴んだから。
一瞬みせた悲しそうな瞳に胸が締めつけられた。
「か、帰りたいんだけど」
「まだダメ」
「だから意味わからないって」
「まだ用件聞いてもらってないでしょ」
「っ……」
なによ、用件聞いてもらってないって。
自分は私のこと忘れて女の子と一緒にいたくせに。
「帰る」
「え、ちょ、」
「この手離してくれます?」
「ヤダ」
しつこいな!いいから一人にさせてよ!
「南川の睨み俺には効かないよ」
──パシン。
乾いた音が、彼の横顔が、周りの音が、痛いくらいに胸を締めつけた。
今すぐ立ち去りたいのに動き出せないのは、彼がまだ私のスクバのえを掴んでるからだ。