風と今を抱きしめて……
男達
九月半ばであるが、残暑が厳しく夕方になってもオフィスには冷房が入っている。
大輔は相変わらず忙しい日々だが、真矢と陸のおかげで充実した日々を送っていた。
大輔のスマホが鳴った。
ユウからだ。
直ぐに外へ出てきてくれと、真矢には絶対に気付かれるなとの事だった。
ビルを出ると、向いの建物の影に一郎の車が停まっていた。
大輔が近づくと、運転席から谷口が降り、後部座席のドアを開けた。
後部座席には一郎が座っており、助手席にはユウが座っていた。
大輔が何事かと尋ねる前に、ユウが口を開いた。
「あのベンチに座っている男が見える?」
ビルの前のベンチには、見るからに野暮ったい三十後半くらいの男が座っていた。
「あの男、真矢の元旦那で勝又っていうの」
ユウが険しい顔をして言った。
その言葉に、大輔の頭の中を、怒りが走り出した。
「話つけてくる」
カッとなった大輔を、一郎が無言のまま静止させた。
「まだ、真矢に会いに来たのかわからん? ただの偶然だったら、真矢の居場所を教える事になる。様子を見た方がいい」
落ち着いた声で一郎が、男三人に指示を出しはじめた。