風と今を抱きしめて……
 オフィスの入り口から、田口夫妻が入ってきた。

 以前より、少し若々しくなったように見える。


「お久しぶりです田口様」


 真矢が立ち上がり笑顔を見せる。



「真矢さんのお蔭でグアムとても楽しかったわ。今度はもう少し遠くに行ってみようと思うの。健康なうちに行かないとね。又、お願い出来るかしら?」

 田口夫人は、目をキラキラさせ真矢の前へ座った。



「勿論です」

 真矢にとって、田口夫人の言葉は何よりも嬉しい。



「お元気そうで、田口様」


 大輔もあいさつをしに、カウンターまでやってきた。



「あら、支店長さん。こんにちは」


「田口様、これかの時期でしたら、オーストラリアはいかがでしょう。南半球ですからこれから夏になります。ケアンズの世界遺産などめぐってみては……」

 真矢が嬉しそうに話し出した。


「それならシドニーがいいですよ。やはりメジャーな観光地ですから、せっかくオーストラリアに行くのであれば欠かせないですよ」

 大輔が割り込んで話を始める。


「そうかしら? ケアンズでキュランダ鉄道でのんびり大自然をめぐって、アボリジニのディナーショーもいいですよ」


 真矢の目はキラキラと輝いている。


「ゆっくり時間をかけて、オーストラリアの都市を周ってもいいですよ」

 大輔も楽しそうに話をすすめる。


 田口夫妻はお互い顔を見合わせ、

「あなた達、いい関係になったみたいね」


 夫人は、ほほ笑んだ。



 真矢と大輔は、お互いを見て顏を赤らめた。


 田口夫妻を見送ると、オフィスに電話が鳴り響いた。


 電話を取った亜由美が、

 「支店長、社長からお電話です」

 その声に、大輔は自分のデスクの電話を手に取った。



 大輔は窓口応対の終わった真矢の側へと近づいた。


 「社長が本社へ来るようにと…… 直ぐ支度をしてくれ」


 大輔は少し表情を曇らせ、真矢に言った。



 大輔も真矢も何の話か検討が付かないまま、一郎の元へと向かった。



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