風と今を抱きしめて……
「そうそう、ハワイ支店が少々経営不振でなあ、アパートを二件借りる経費が無いらしい。
校外に一軒家を借りてある。
悪いがそこで三人で住んでくれ。広さも十分あるし問題ないだろう」
一郎の表情は、嬉しい気持ちをを必至で隠しているようだ。
真矢は、益々混乱して言葉が出ない。
「ありがとうございます」
大輔は、納得したようで深々と頭を下げた。
「しかし、横浜支店の方はどうされますか」
大輔の言葉は、真矢の耳に入っていなかった。
「ユウに任せようかと思っとる。ユウには話をしてはあるが……」
一郎が話出した時、ドアがノックされ、秘書が入ってきた。
「波多野さんが見えました」
「通してくれ」
秘書がドアを開けると、ユウが見慣れないスーツ姿で入って来た。
「今、君の噂をしていたとろだ」
一郎が、ユウをソファーへ促す。
しかし、ユウはソファーへは座らずに、深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。社長、この間の横浜支店の話ですが、お断りさせて下さい」
ユウの目は、何の迷いもなく真直ぐに一郎に向けられていた。