風と今を抱きしめて……
「どうしてだ?」
大輔が驚いて、ユウを見た。
ユウは胸の内ポケットから一枚の白い封筒を出した。
『退職願』と書いてある。
真矢も大輔も驚きのあまり声が出ない。
一郎だけが、落ち着いてユウの差し出した封筒へ目を向けていた。
「突然だな…… 訳を聞かせてくれるか?」
一郎の声は、決して責めている物では無かった。
「もう一度、建築デザインの仕事をしようと思います。お世話なりながら、勝手な事言って申し訳ありません。イタリアに行きます」
真矢は益々頭が混乱して、ユウの言葉を受け入れる事が出来ない。
しかし、一郎は落ち着いたまま、話を進めていく。
「多分そう言い出すんじゃないかと思っていたよ。それでいつ発つんだ?」
一郎は驚く様子もなく、すべて分かっていたかのような口調で尋ねた。
「今夜の便で経ちます」
「又、急だな」
一郎は立ち上がり、机の引き出しから少し歪んだ形の封筒を出した。
「退職金代わりだ」
ユウが封筒を受け取り、ゆっくりと開けた。
ユウの手の平の上に、ローマ字で住所らしき物が書かれたメモと一緒に、鍵が出てきた。
「ローマ支店の近くで、古いが建物が気に入って数年前に一部屋買ったんだ。好きに使うがいい」
「すみません。助かります」
ユウの目に涙が滲んだ。
「お前が以前働いていた職場の人達が待っているそうじゃないか…… 七年も経つのに席が残っていると聞いた」
一郎の言葉に、ユウは深々と頭を下げた。
頭を下げるユウに、何も言わずじっと見つめる一郎の目は、言葉は無くとも、二人の深い思いがあった。
しかし、真矢には何が起きているのか解らなかった。
ユウが居なくなるなんて思ってもいなかった。
いや、信じたくなかった……
ユウは、真矢と大輔へ向きを変えて言った。
「支店長、真矢…… 元気でね。陸に『さよなら』って伝えておいてね」
ユウは笑顔を向けると、部屋を出て行った。
真矢は、しばらく呆然と立ちつくしていいたが、我に返ったように、部屋を飛び出した。
大輔が驚いて、ユウを見た。
ユウは胸の内ポケットから一枚の白い封筒を出した。
『退職願』と書いてある。
真矢も大輔も驚きのあまり声が出ない。
一郎だけが、落ち着いてユウの差し出した封筒へ目を向けていた。
「突然だな…… 訳を聞かせてくれるか?」
一郎の声は、決して責めている物では無かった。
「もう一度、建築デザインの仕事をしようと思います。お世話なりながら、勝手な事言って申し訳ありません。イタリアに行きます」
真矢は益々頭が混乱して、ユウの言葉を受け入れる事が出来ない。
しかし、一郎は落ち着いたまま、話を進めていく。
「多分そう言い出すんじゃないかと思っていたよ。それでいつ発つんだ?」
一郎は驚く様子もなく、すべて分かっていたかのような口調で尋ねた。
「今夜の便で経ちます」
「又、急だな」
一郎は立ち上がり、机の引き出しから少し歪んだ形の封筒を出した。
「退職金代わりだ」
ユウが封筒を受け取り、ゆっくりと開けた。
ユウの手の平の上に、ローマ字で住所らしき物が書かれたメモと一緒に、鍵が出てきた。
「ローマ支店の近くで、古いが建物が気に入って数年前に一部屋買ったんだ。好きに使うがいい」
「すみません。助かります」
ユウの目に涙が滲んだ。
「お前が以前働いていた職場の人達が待っているそうじゃないか…… 七年も経つのに席が残っていると聞いた」
一郎の言葉に、ユウは深々と頭を下げた。
頭を下げるユウに、何も言わずじっと見つめる一郎の目は、言葉は無くとも、二人の深い思いがあった。
しかし、真矢には何が起きているのか解らなかった。
ユウが居なくなるなんて思ってもいなかった。
いや、信じたくなかった……
ユウは、真矢と大輔へ向きを変えて言った。
「支店長、真矢…… 元気でね。陸に『さよなら』って伝えておいてね」
ユウは笑顔を向けると、部屋を出て行った。
真矢は、しばらく呆然と立ちつくしていいたが、我に返ったように、部屋を飛び出した。