風と今を抱きしめて……
旅行
「おはようございます!」
オフィスのドアを開け、真矢は自分の席に座った。
商業ビルの一階、人通りの多いメインストリートに支店を構え、窓も多く明るい作りが気軽に人の足を運ばせる旅行会社。
海外にも支店がいくつかあり、真矢は横浜支店での窓口を担当している。
幼い頃から旅行好きの真矢には仕事の大変さも苦では無く、この仕事が好きだった。
真矢の隣の席でパンフレットの準備をしているのは、波多野裕(はたのゆう)三十五歳、皆からユウと呼ばれて、背も高く優しい笑顔に女性客の人気も高い。
後ろの席でメガネを掛け、髪を一つに束ねた島田奈緒美(しまだなおみ)三十三歳。
一見穏やかそうに見えるが彼女の能力はすごい。
見積もり、資料作成の速さに間違いは絶対にない。
皆、彼女に確認してもらう始末だ。
そして入社二年目の森田亜由美(もりたあゆみ)二十四歳とても愛らしいく、プライベートも充実しているようで仕事にも熱心だ。
課長の早川(はやかわ)隆(たかし)五十二歳。
娘が結婚するとかしないとかで落ち着きがない。
一見、頼りなささそうに見えるが、人当りが良く以外に信頼度が高い。
主に添乗業務をしている北野(きたの)勉(つとむ)四十五歳。
二児の父でイクメン中。
手際よく仕事をこなし、厳しそうな表情をしているが、笑うと目が無くなり人の好さが現れる。
これが、真矢の勤めるオフィスの仕事仲間だ。
課長が毎朝行っているミーティングの号令を出す。
それぞれに今日の顧客との打ち合わせ、ホームページの確認、メールでの予約などの予定を報告する。
最後の亜由美の報告が終わると同時に入口の扉が開き、一人の男が入ってきた。