風と今を抱きしめて……
 スーパーの特売を見ながら、陸がハンバーグを食べたいと言っていた事を思い出し、三人分の材料をかごに入れた。

 真矢は気持ちが弾んでいる事に、大きく深呼吸をし自分を落ち着かせた。



 スーパーを出てしばらく歩くと、反対側の歩道を歩くユウの後ろ姿が目に入った。

「ユウ!」

 真矢は、ユウに声をかけた。


「あらっ」

 ユウは、笑顔で振り向いたが、

 「陸はどうしたのよ!」

 と、険しい顔に変った。


 真矢は、一瞬大輔の事を話すべきか迷ったが、ユウに嘘はつきたくなかった。

 というか、嘘はつけないと思った。


「支店長が見てくれていて……」

 真矢が言うと……


「支店長って? どういう事よ?」

 ユウに問い詰められた。


「たまたま通りかかったらしくて……」

 真矢は、ぼそっと言い訳をした。


「たまたまって何よ?」

 ユウが興味津々に聞いてきた。


 真矢は大輔に助けてもらった事をユウに話した。

 キスの事は言わなかったが……



「たまたま、人を助けるってそんなにある事じゃないわよ。支店長、真矢の事が気になっているみたいね」

 ユウが、横目で真矢を見た。


「そんなんじゃ無いわよ」

 真矢は、キツイ口調の自分に驚いて下を向いた。

「男の人なんて簡単に信じられる訳ない! もう嫌なの、自分が自分で無くなるのは、陸といっぱい笑って暮らしたいの…… 怖い思いは、もうしたくない」

 真矢の声は震えている。


「わかっているわよ。そんなに悪く考えなくてもいいじゃない…… 陸が喜んでいるんでしょ?」

 ユウの言葉に真矢はうなずいた。


「陸が笑顔ならそれだけでいいじゃない? 陸は感のいい子よ。悪い人ならそんなに簡単になついたりしないわ。そうでしょ?」

 
 ユウは落ちつた声で、真矢をなだめるように言った。
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