風と今を抱きしめて……
 真矢が後片付けをしていると、陸が近づいて来た。


「おじちゃん、なんか変だよ。早く来て。」

 真矢の手を引っ張った。


 ソファーに大輔が横たわっている。


 慌てて真矢は大輔の額に手を当てた。

 しかし、熱は無い。

 後ろで陸がニコニコと真矢を見ている。



「そろそろ、おじちゃん帰る時間ね」

 真矢が言った。


「お熱あるでしょ?」

 陸が必至で訴える。


「ウソは駄目よ。おじちゃん明日仕事だからね」


「嫌だ。今日も泊てってよ」

 陸が泣き出した。


「陸も明日保育園でしょ。今日はおしまい。また今度ね」


「陸また今度な」

 大輔があきらめたように言った。




 真矢と陸は、大輔の車を駐車場から見送った。


「色々ありがとうございました。気を付けて」

 真矢が頭を下げた。


「いや、俺の方こそありがとう」


「おじちゃんバイバイ」

 陸が、半分泣き声で手を振った。


 大輔の車が見えなくなると、真矢はほっとしたのと同時に、少し寂しさも感じていた。


 真矢は、入院費を返すのを忘れていた事を思い出したが遅かった。
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