風と今を抱きしめて……
 真矢は一人になった大輔を見つけ、入院費を返そうと駆け寄ろうとしたが、その間を割り込むように、梨花が大輔の前に走り寄った。


「大輔さん、じゃなかったごめんなさい。支店長、お聞きしたい事があるのですがいいでしょうか?」

 梨花が資料を差し出す。

 真矢の胸がズキっと嫌な音を立てた。


「ああ……」

 大輔は話かけようとした真矢をチラっと見たが、梨花の勢いに負けたのか、質問に答え出した。


 真矢は仕方なく席にもどり、二人の様子をつい見てしまった。

 梨花は大きな瞳が可愛らしく、お嬢様らしい品がある。

 ブランドに縁のない真矢でさえ、梨花のブラウスにスカートは高級だと言う事は分かった。アクセサリーも高そうだ。

 真矢は面白くなかった。


 大輔と並ぶと絵になる。

 気が着くと梨花の若さに嫉妬していた。


 話が終わり、梨花が席に戻ったのを確認すると、真矢は大輔の席に向かった。


「大輔さん、じゃなかたごめんなさい。支店長サインお願いします」

 真矢は嫌みたっぷりに書類を差し出した。


 大輔はギョッとして、真矢に声をかけようとしたが、入れ替わるように、


「大輔さん、じゃなかったごめんなさい。支店長これお願いしま~すぅ」

 ユウがどうでもいいチラシを大輔に差出し、スキップをして戻って行った。


三人のやりとりを見ていた奈緒美は、本当に急ぎで大輔に見せなければならない書類があるようで、そっと大輔に近づいて来た。


「あの~」

 声を掛けられただけで大輔は奈緒美を睨んでしまった。


 黙って大輔に書類を渡した奈緒美は、怖い顔でユウを睨んでいた。


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