風と今を抱きしめて……
 ランチルームで真矢は、奈緒美と昼食を取っていた。

 隣のテーブルに梨花と亜由美、うれしそうな顔で北野が座った。


「梨花さん、そのブレスレット今年の新作ですよね?なかなか手に入らないって噂なのに凄いですね。素敵ですよ」

 亜由美がうらやましそうに見た。


「このブランドの新作はすべて買うように頼んであるから、手に入らないなんて知らなかったわ」

「すべて買うんだ。すごい……」

 亜由美は素直に驚いていた。


「だけど梨花さん何で研修に横浜支店なんかを? 本社の方が勉強になるでしょ? 良かったら僕と一緒に添乗も研修します?」

 デレデレと北野が愛妻弁当を食べながら言った。


「支店長の下で研修したいんです。私、支店長のフィアンセに立候補したんです。そうしたらパパが、支店長の仕事をしっかり見て来いって。ちゃんと支える事が出来るか考えてくるように、って」

 梨花が力強く両手をあわせた。


 奈緒美と北野は驚いたように目を見合わせた。



「フィアンセって立候補するんだ?」

 北野は的外れな所に驚いている。


「支店長のどんな所がいいの? 年も離れているんじゃない?」

 奈緒美がもっともな質問をした。


「去年ロサンゼルスに遊びに行った時、支店長が案内してくれたんです。大人で落ち着いていて、適格な説明に無駄が無くて、ひとめぼれっていうのかな?
 同じ年のボーイフレンドとは全然違って、安心感があるっていうか。その後も何回かロスに遊びに行くたび、デートしてくれて、この人だと思ったんです。
 でも、支店長ロスでも凄くモテていて、綺麗な女の人とデートばっかりしていて、だから負けないように支店長の力になれる女性になるよう頑張ろうと思ったんです」

 梨花は、明るく笑顔を向けた。


 真矢にも当然聞こえて来た。

 真矢は、頭から心臓目がけて何かが刺さったような衝撃を受けた。

 大丈夫大輔の事なんて何とも思ってないと自分に言い聞かせた。

 だから男は嫌だ。

 これ以上係わらないようにしよう。


 なんで私の事なんて助けたんだろう? 

 哀れな親子とでも同情したのか? 


 真矢は何だか腹が立ってきて、早く入院費を返そうと決めた。
< 36 / 116 >

この作品をシェア

pagetop