風と今を抱きしめて……
真矢が出社すると、梨花はすでに出社して、机を拭きパンフレットを整えていた。

 お嬢様でも雑用やるんだなと感心したが、大輔が出社するなり、オーバーに掃除をする姿に、大輔へのアピールだと思ってしまった。

 真矢は自分のひねくれた感情に落ち込んだ。


 だが、真矢の心境とは裏原に、梨花の嫌がらせが始まったのだ。


「真矢さんの靴って可愛いですね。どこのブランドですか?見たことないです」

 梨花が大輔に聞こえるように聞いてくる。


「近所のシューズショップのバーゲンで二千九百八十円だけど、欲しければ買って来てあげるわよ?」

 真矢が忙しそうに答える。


「えー。靴って一万以下でも買えるんですね。真矢さん買い物上手ですね。私、昨日青山のお店でどうしても欲しいハイヒール見つけちゃって、八万円で買っちゃっつたからいいです」

 梨花も負けない。


「真矢さんのシャツ素敵。どこのですか?」

「駅ビルの半額バーゲンだけど」


「真矢さんのバッグ可愛い。どこのですか?」

「雑誌の付録よ」


「真矢さんのブレスレットカッコいい。どこのですか?」

「拾った」


 さすがに大輔も声を出して笑いだした。


 梨花は、なんやかんと真矢に話しかけ仕事の邪魔をしてくる。


 面倒くさいと思うが一か月の研修の辛抱と、真矢はあきらめていた。


 大輔とは相変わらず仕事以外の会話はしていない。


 何度も大輔が話かけようとするが、真矢は避けていた。

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