風と今を抱きしめて……
一郎はさっきまでの、父親への熱い思いが、すぅーっと冷めて行く気がした。

 なんで、アメリカに行く息子よりも、東京へ行く友紀子にあんなに動揺するのか? 

 何だかおかしくなってきて、一郎は声を出して笑った。



 後から、母に聞いたのがが、友紀子は一郎と喧嘩した後、毎日工場に来ては、達彦に一郎の話を聞いて欲しいと達彦を説得していたらしい。

 本当に友紀子らしいと思った。



 
 卒業を迎え、友紀子は東京へ、一郎はアメリカへと旅立った。

 友紀子と再会した時には十年以上も経っていた。


 一郎は、アメリカに留学し、バイトでお金を貯めては、東南アジア、オーストラリアなど様々な国を旅した後、旅行会社に就職した。

 渡航中、オーストラリアに留学中だった奈美(なみ)と日本に戻った時に結婚し、息子が一人居た。

 はじめは希望に満ちた仕事だと思っていたが、最近では生活の為に働いているという感覚になり、妥協する事も多くなっていた。
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