風と今を抱きしめて……
 真矢は慌てて目をそらし、ビールを飲み干した。

「そんな事より、梨花さんの事は良かったんですか?」

「ああ。気になる?」

 大輔は上目使いに真矢を見た。


「いえ、別に……」

 真矢はなんだか、話が大輔のペースになってしまい、どぎまぎしていた。


「梨花さんとは別に何もないよ…… 社長に頼まれてロスで観光の案内は何度かしたけどね……」


「梨花さん、デートしたって言っていましたよ」


「まじかよ。ほとんどいつも友達が一緒だったぞ」

 大輔は参ったというように、肩を窄めた。


「でも、社長令嬢じゃないですか? 美人だし男なら文句の付けどころが無いと思うけど。彼女、本気で支店長の事好きだったんですよね」


「じゃあ俺にどうしろって言うの? 無理して付き合えばよかった?」

 大輔の口調が少しイラつている。


「そういう事じゃなくて…… 好きって気持ちがストレートで羨ましいと思っただけですよ」


 真矢は、なぜ梨花の話などしてしまったのか? 

 自分がやきもちを焼いているようで、嫌になった。


「そうだよな… 確かに彼女は好きって真っ直ぐにぶつかってくる子だったな… 確かに羨ましいかも…… 年を重ねると、経験ばかりが邪魔してきて臆病にもなるよな……」


「えっ! 支店長でもそんな事思うんですか? ロスでは女性関係かなり激しかったって噂聞きましたけど」


「おいおい、どんな男に俺はされているんだ? まあ、確かにモテたし、この年だから白とは言わないけど…… アメリカと日本とじゃあちょっと違うかも……」


「別に言い訳なんかしなくても、私気にしていませんから」


「気になったから言ったんじゃないのか?」


「別に、チャラ男の話なんてしていません」


「え―。俺チャラ男まで言われているのかよ?」


「あっ。それは私が言ったのかも?」

 しまったという顔をした真矢を大輔は軽く睨んだ。


「でも、恋愛も仕事もいい加減だったかもしれない。社長やお前を見て、大事な事思い出したのは確かだ」


「私なんてまだまだですけど、社長は旅の仕事に妥協しない方ですよね。私はここで働けて良かったって本当に思ってます」


「俺も今はそう思っている」


 大輔と真矢は目を合わせて笑った。
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