風と今を抱きしめて……
 焼き肉店を出て、大輔と真矢は海辺の歩道を歩いている。

 近くに公園があるせいか、やたらにカップルが多い。

 夏のはじめの海からの夜風は心地よく、遠くの夜景を見ながらゆっくりと歩いていた。


 真矢は大輔と並んで歩く事に胸が高鳴っているのを隠すように、仕事の話を続けていた。


 ふと大輔が足を止めた。


「もう少し飲んでかないか?」

 大輔が、公園の横に光るオープンバーを指さした。


「でも……」

 真矢はためらったが……


「陸はユウと一緒なんだろ。もう少しいいだろう?」

 大輔はバーカウンターに向かって歩き出した。

 真矢も渋々後に続いた。



「モスコミュール」

 大輔がバーテンに注文し真矢にも促す。


「ブルーハワイ」

 メニューをじっと見ていた真矢が言った。


「偉くトロピカルだな……」


「もう、夏ですからね」


 真矢は笑って大輔を見た。

 大輔の優しい目と重なり胸が苦しくなった。


 海側のテーブルに座り、ピアノの音だけのBGMが耳障り良く流れていた。


 バーテンがテーブルにモスコミュールとブルーハワイを置いた。


 軽くグラスを交わし、真矢はストローで一口飲むと思わず笑が毀れてしまった。


 そんな真矢をじっと見ていた大輔が口を開いた。


「この間、長谷川社長から君のお母さんの話聞いたよ。社長の初恋の人くらいだから、いいお母さんだったんだろうね」


「ええ。明るくて元気で、生徒からも信頼されていて…… でも、家で怒るとしばらく口利いてくれなくて、怖かった……」


「ああ…… 想像出来るなあ。君に良く似ているよ……」


「どういう意味ですか? 何処が似ているんですか?」


「もちろん、明るく元気なところだよ……」


 大輔は慌てて両手を振った。

 真矢は大輔に冷たい視線を送った。

 真矢の視線を受け取ったように大輔が言った。


「俺は君にどうやったら信じてもらえるんだろう?」
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