風と今を抱きしめて……

「私、信じて無いなんて一言も言ってないじゃないですか? 素晴らしい支店長だと思っていますよ」


「そうじゃなくて、男としてだよ! 俺は君が好きだ…… もちろん陸の事も大切に思っている。それをどう君に伝えれば、信じてもらえるのかが分からない……」


 真矢は、大輔のストレートな言葉に、胸が苦しかった……


「それは支店長のせいじゃ無いですよ。私自信の問題です。私が人を好きにならないって決めているから……」

 真矢は席を立ち、海辺のフェンスの方へと歩いた。


 大輔も真矢の横に並んだ。


「どうして? そんな事、決める物じゃないだろう?」

 大輔が真矢を見る。


「怖いんですよ。嫌われるかもしれない。私の事を知れば知るほど嫌になるかもしれない。
 私は人から好きになってもらえるような人間じゃない。嫌われたら、また……」

 
 真矢は、言葉を詰まらせた……

「大丈夫だ…… 俺は、お前に笑っていて欲しいだけだ……」

 
 「でも…… 私は私だから…… 笑いたい時に笑うし、怒りたいときに怒る。
 もし嫌われたら、自分を見失うかもしれない……
 今度は陸も傷つけてしまう事になる……」

 真矢の目に涙が滲んだ。


 真矢を見ていた大輔の手が突然肩を引き寄せ、そのまま強く抱きしめられた。


 背中に回った大輔の腕は逞しくて、そして、暖かかった……


 真矢の耳元で、大輔が声を押し殺して言った。


「そんな悲しい事言うなよ! お前が、嫌われるかもなんて思っていたら、俺だって嫌われるかもって不安になる。俺はお前を嫌いになったりしないから、お前も俺を嫌いになるな! それなら大丈夫だろ?」


「何それ……」

 真矢の体の力がふっと抜けた……


「笑いたい時に笑って、怒りたい時に怒って、泣きたい時に泣く…… そんなの当たり前の事じゃないのか?
 そんな事で俺から離れないでくれ……」
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