風と今を抱きしめて……
「支店長……」


「どうやってこの気持ちを伝えればいいのか解らないけど…… 
 お前が陸を抱いてアパートから出て来た時、俺は必至だった。陸が俺の腕の中で、苦しそうに俺の目を見た時、絶対助けてやるって思った。それ以外何も考えて無かった。
 陸の寝顔見て、この子は元気になったらどんな笑い方するんだろう? どんな話をするんだろう? 
 そんな事ばかり考えていた。
 そんな風に思った事初めてだし、絶対に忘れない。それだけじゃダメか? 絶対にお前も陸も俺が守るから! ダメか?」

 大輔は真矢をもう一度強く抱きしめた。


 真矢は大輔の言葉に答える事が出来ず、ただただ大輔の胸の中で泣き続けた。



「お前の不安がそんなに簡単に無くなるとは思っていない。谷口さんやユウを見ていればわかる。だから、一度に全てを俺に向けろとは言わない。少しづつでいい、谷口さんやユウと一緒に俺にもお前を守らせてくれないか? ただ、男として……」

大輔の力強くも優しい声が、真矢の中で何かを動かし始めた……



「どうして、気付かなかったんだろう?」

 真矢は、顔を上げて大輔を見た。


「何を?」

 大輔の指が、優しく真矢の涙を拭った。


「支店長が熱でうなされて、私の事突然抱きしめたのよ。でも、私怖いって思わなかった。あの時から安心できる人だって解っていたのに…… でも、支店長覚えていないでしょ?」


「いいや、覚えている。お前に側に居て欲しいって思った」


「熱のせいだと思ってた…  でも、空港の展望デッキで会った時から、支店長への恐怖心なんて無かった…… そんな事、今まで無かったのに…… どうして気付かなかったんだろう……」


「それって、俺の都合のいいように考えていいんだよな?」



 胸の中に熱いものが流れていく……


 真矢の心の中で冷たい何かが溶けていくようだった……


 
 大輔は真矢の手で頬を包み、唇をやさしく重ねた…………


「好きだ……」



 大輔が真矢の耳元で囁いた声が、優しく、そして深く真矢を包んでいった……





 大輔のマンション、黒の家具でシックにまとめられたリビングの奥に、ダブルベッドが置かれている。


 真矢は大輔の腕の中で、裸のまま安心したように眠りについていた……


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