俺様御曹司に飼われました
「さん付けする度にキスするからね」


「や!外ではしないでね!」


「外でもするから。だから呼ぶなよ。これは命令」



暁って呼んでから、なぜだか彼の表情が穏やかだ。



「ねぇ、もしかして元カノに呼ばれてた?」


「……っ」



図星だったようで、悪魔の目が大きく開かれる。



「その人は、暁の心に硬い何かを残して……いまどこでなにしてるの?」


「ここで俺の隣にいる」


「は……?なんの冗談」



今ここにいるのはあたし。
あたしはその元カノの代わりだ。



「いるじゃん、お前がここに」


「いくら暁がそう思っても、あたしはその人自身にはなれないよ」



さすがにこれ以上何かを言われるのはキツくて。
心が死んでしまいそうなので、立ち上がる。



「どこ行くんだよ」


「部屋……ちょっと疲れたから横になる」



悪魔のことは振り向かず、そのまま部屋のドアを開けた。

あたしもほかの誰かを好きだったら楽だったのに。
他の誰かを好きな者同士、気楽な付き合いができたのに。



「もうずっとこんな想いしなきゃならないのかなぁ……」



この日、どれだけ涙を流したかなんて分からないくらい泣いた。

悪魔の前には行けずにこの日が終わった。

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