あなたの溺愛から逃れたい
『創、太…….離れて……』

突然のことに、恐怖で少し声が震える。


だけどその一方で、まだ冷静さを保つことが出来ていたのは、創太の表情が怖いだけではなく、どこか切なそうにも見えたから。


『……さっき一緒にいた男、誰』

少しの間の後、創太がそんなことを尋ねてくる。


さっきの男って……電車内でたまたま会っただけのクラスメイトのこと?


何だろう、この質問。まるで……中学生の時、私が駅で創太と女の子を見掛けたあの時みたい。



『どうして、そんなこと聞くの?』

私がそう聞き返すと創太は、掴んでいた私の右手首に込める力をギュッと強め、そして更に悲しそうな顔をした。


『俺は逢子が好きだから、他の男と一緒にいてほしくないんだ』


……え? 好き? 創太が、私を?


『嘘……』

『嘘じゃない。ていうか前にも言ったじゃん』

『え?』

『中学生の時。俺は逢子が好きだって確かに言ったと思うんだけど』


それは……確かに言われたけど……。


『冗談じゃなかったの?』

『俺が冗談でそういうこと言う奴に見える?』

『そ、そうじゃないけど……だって、その後何も言ってくれなかったから』

『逢子が答えてくれなかったから、逢子にはその気がないんだと思って諦めようとしたんだ。でも、毎日顔を合わせてたらとてもじゃないけど忘れるなんて出来なくて。片想いでも良いと思った。だけどやっぱり……逢子が俺以外の男と親しげに話してる姿を見たら、我慢出来なくなった。意外と独占欲強いんだな、俺って』

最後の方は、創太は自嘲気味に笑った。
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