あなたの溺愛から逃れたい
何を?なんて聞き返すほど子供のつもりはなかったけど、いいよ、と即答してあげられるほど大人でもなかった。


『な、何言ってるの。誰か来たらどうするの』

『ああ、この部屋、逢子の部屋と違って鍵付いてるから』

『で、でも誰かにバレたら……っ』

『今日は皆、団体客の接待してるからしばらく温泉棟の方から戻ってくることはないよ。まあ、本当は俺も逢子も手伝いに行かなきゃいけないんだろうけど。まだ学校から帰ってきてないことにしてさ』

ああ、そうだった。道理で人の気配がない訳だ。私としたことがお客様のご来店の予定を忘れるなんて……って、今はそうじゃなくて。


『で、でもそんないきなり……私たち、キスもしてないのに……』

『じゃあ、今しよ』

『あっ、ん……』

創太の端正な顔が近付いてきて、戸惑う隙もなく、唇が触れ合う。
勿論、これが私のファーストキス。素敵な思い出だ。


そして結局……私も創太のことが好きだから拒むことが出来ず、そのまま身体を重ね合った。
初めてだったから痛みもあったけれど、創太は終始私の様子を気に掛け、優しくしてくれた。

お互いの乱れる呼吸、お互いの名前を呼び合う声、肌がぶつかり合う音……全てを鮮明に覚えている。
< 12 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop