あなたの溺愛から逃れたい
「……何か用?」

彼の愛から逃げたいだけで、嫌われたい訳ではないのに、素っ気ない態度になってしまった。


いや、嫌われたくはないなんて甘いことを言っているからいけないんだ。

彼の幸せの為には、私は彼に嫌われたっていいと思わなきゃ……。


「何怒ってるの」

「怒ってない」

さっきはつい素っ気なく言ってしまったけど、今度は意識的に冷たく返した。

創太に、嫌われる覚悟で。


「見合いならしないから。そんなに怒るなって」

少し困ったような表情と声色でそう言われた。
あ、私が素っ気ない理由、そう思われてたんだ。



「俺が好きなのは後にも先にも逢子だけだよ。他の女になんて一ミリも興味ない」

真っ直ぐに愛を伝えられ、思わずドキンと胸が高鳴る……。
駄目! ときめいちゃいけないのに……。


「……さい」

勇気を出して絞り出した声は小さ過ぎて、「え?」と聞き返される。


言わなきゃ。

嫌われてもいいから。



「……お見合い」


私は彼の目を真っ直ぐに見つめて。



「お見合い、してください」


声が震えそうになるのを何とか堪えて、私は彼にそう伝えた。



「……は?」

創太は当然、訳が分からないと言わんばかりの表情で私を見つめる。


心臓の動きがどんどん早くなる。
脈打つ音が、やけに大きく聞こえる。


この場から、今すぐ走り去りたい。


でも、ちゃんと向き合わなきゃ。
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